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核酸サプリの話

さて、インターネットで“核酸サプリ”を検索してみると、数多くの商品がヒットします。ここからはこの核酸のサプリメントについて検証する、 すなわちこれらのサプリメントに本当に効果を期待してよいのかどうかを考えていきたいと思います。これまでの“核酸栄養の話”から抗酸化能 や免疫力を高めるといった効果が期待できますよね。ただし、良く考えなければいけないのは、私たちは通常の食事ですでに核酸を摂取している ということです。サプリメントの本来の目的は摂取不足の際にそれを補うということです。では、核酸の摂取が不足するという状況は起こり得る のでしょうか。核酸はほとんどの食事に含まれるわけですから、食事そのものを制限するダイエットのときや、何らかの原因による食欲不振のと きに核酸の摂取不足は起こりそうですね。食事制限や栄養失調では免疫力が低下すると言われていますが、このような時に核酸サプリは免疫力を 回復させることが期待されます。また抗酸化能の低下を防ぐことも期待できますよね。
核酸サプリに関しては、もう1つ考えなければいけない大事なことがあります。核酸のサプリメントは皆、経口摂取する(消化管から吸収される) ものです。口から摂取した核酸は、その鎖状の構造が消化によりヌクレオシドや塩基の状態にまで分解されます。このときヌクレオシドのアデノ シンはからだに対する作用が強い物質のため作用のないイノシンに分解されます。このイノシンがパーキンソン病の予防を目的とした研究に使わ れていることを前回お話しましたよね。核酸はヌクレオシドあるいは塩基(グアニンなど)の状態で消化管から吸収され、門脈を通って肝臓へ行 き(消化管と肝臓をつなぐ経路の静脈を門脈と言います/本来静脈の血液は心臓に戻りますが、消化管からの静脈血は吸収した栄養素を処理するた めに肝臓へ向かいます)、そこで再び各種ヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、チミジン、シチジン、ウリジン)やヌクレオチドになりDNAや RNAの合成につかわれます。このような核酸の合成をサルベージ合成といいます。また、後で説明するアミノ酸と葉酸から核酸を合成することをデ ノボ合成といいます。デノボ合成とサルベージ合成は核酸の話の基本的なことでもお話しましたね。

栄養状態が悪いと消化管の機能が低下してしまいます。前にもお話しましたが、摂取した核酸は消化酵素の働きでヌクレオシドや塩基にまで分解 されて吸収されますが、栄養状態が悪いと消化管の機能が低下して、ヌクレオシドや塩基の吸収も悪くなるのではと思いませんか? そこで核酸 が長くつながったDNAよりもある程度消化された鎖の短いDNAやヌクレオチド・ヌクレオシドの形体の核酸を含むサプリのほうが効果的と考えられ るかもしれません。さらに、消化管機能の低下を補える成分を配合したサプリメントが有効であると考えられますが、このような製品はまだない ようです。
では、どのような成分が加わると良いのかちょっと考えてみましょう。消化管で栄養を吸収する細胞は小腸の上皮細胞です。この上皮細胞は食事を するたびに送り込まれてくる食物の食化物と接触し傷つくことから絶えず再生されています。再生には細胞の分裂が必要で核酸をつくることが非常 に重要です。核酸栄養に関する論文を調べてみると消化管の上皮細胞が分裂するのに必要な核酸は食事性の核酸に依存すると書かれています。ところが、 ねずみでの実験なのですが、栄養素のうちで核酸ではなくタンパク質を制限すると消化管の形態が大きく変化し栄養の吸収に重要な絨毛構造が退縮 することが確認されています。また、このように消化管がタンパク質制限により影響を受けると、腸内の細菌がからだに侵入しやすくなります。 このとき核酸を与えてあげると細菌の侵入が抑えられることが報告されています。

この実験結果は、消化管でのDNA合成は食事性の核酸でまかなっているのでなく、タンパク質の分解により得られるアミノ酸を材料にして行われ ている可能性を示しています。消化管の上皮細胞はデノボ合成で核酸を作っていますが、アミノ酸が不足するとサルベージ合成に切り替えて上皮細 胞を再生させることができるのかもしれませんね。
ちなみに核酸の合成に利用されるアミノ酸は、グルタミン、アスパラギン酸とグリシンの3つでしたね。このうち グルタミンはピリミジン塩基をもつ核酸のデノボ合成の最初の段階で必要な大事なアミノ酸です。消化管に由来するがん細胞の研究でも、その増 殖にグルタミンが必要であることが報告されています。また、葉酸(正確にはプリン環の合成ではホルミルテトラヒドロ葉酸のホルミル基という 部分、チミンの合成ではメチレンテトラヒドロ葉酸のメチレン基という部分)も核酸の合成には必要でしたね。

グルタミンに関しては免疫を担当するリンパ球の増加にも深く関与することが報告されています。グルタミンや葉酸を核酸と同時に摂取すること の意義については、まだ検討は行われていないようです。

新たに”免疫の話”を掲載しました。

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参考とした資料
Deitch et al. ; The gut as a portal of entry for bacteremia. Role of protein malnutrition. Ann Surg. 205:681-692, 1987.
Adjei AA, Yamamoto S ; A dietary nucleoside-nucleotide mixture inhibits endotoxin-induced bacterial translocation in mice fed protein-free diet. J Nutr. 125:42-48, 1995.
Sanderson IR, He Y ; Nucleotide uptake and metabolism by intestinal epithelial cells. J Nutr. 124:131S-137S, 1994.
Tatibana M, Ito K ; Control of pyrimidine biosynthesis in mammalian tissues. I. Partial purification and characterization of glutamine-utilizing carbamyl phosphate synthetase of mouse spleen and its tissue distribution. J. Biol. Chem. 244: 5403-5413, 1969.
Tatibana M, Shigesada K ; Two carbamyl phosphate synthetases of mammals: specific roles in control of pyrimidine and urea biosynthesis. Adv. Enzyme Regnl. 10: 249-271, 1972.

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