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免疫の話

細菌やウイルスから私たちのからだを守る免疫機能について勉強しよう。

新型コロナウイルスによる感染が私たちの健康だけでなく生活全般に甚大な被害をもたらしています。 このようなウイルス感染に対する検査や治療薬の開発、ウイルスから私たちのからだを守るワクチンな どの話がテレビで盛んに報道され、抗体、抗原、自然免疫、獲得免疫といった免疫の専門用語が解説 されていますよね。でも、なかなか理解することは難しいですよね。また、以前は盛んに免疫を高め ると宣伝していたCMをなぜかみかけなくなりましたよね。
病原体に侵されたときに私たちのからだに何が起こるかというお話は、大学の講義では免疫学として学 びます。また、高等学校の生物でも免疫についてけっこう勉強しているようですね。免疫というのは非 常に複雑で、また、研究の進歩が速くてちょっと教えにくい分野でもあります。ここでは免疫の基本的 なことをお話してみたいと思います。基本的なこととはいえ、ちょいと?根気がいるお話ですが、少し でも免疫に関する理解が高められればと思います。
免疫は、私たちのからだを構成する11の器官系の1つであるリンパ系の機能です。
先ずは免疫で登場する細胞と物質について紹介しようと思います。
好中球は血液中に存在する血球のうち顆粒球に属する細胞で、細菌の細胞壁を壊すリゾチウムという 物質を放出したり、細菌をはじめとする異物を食べることを特技とします。特にIgG抗体(後で説明します) と結合した異物が大好物です。



B細胞は血液およびリンパ液中に存在するリンパ球の1種で、細菌などの異物の刺激を受けると形質細胞 に変化して抗体という免疫で最も重要な武器をつくります。細胞の表面にIgMという抗体を 持っていて、これで異物を認識します。



T細胞はリンパ球の1種で特異的な異物の抗原(後で説明します)を認識する1種類のT細胞受容体をもってい ます。 抗原を認識しる前のT細胞をナイーブT細胞、抗原を認識し刺激を受けたT細胞をエフェクターT細 胞といいます。エフェクターT細胞はいくつかの種類に分けることができます。 その1つであるヘルパ ーT細胞は、他の免疫細胞の機能を調節するために刺激を行ったり、サイトカインという免疫細胞に作用 する物質をつくります。ヘルパーT細胞は、つくるサイトカインの種類とその働きでさらに分類されます 。細胞傷害性T細胞は、体内でウイルスに感染してしまった細胞を強力な武器をつかって攻撃する能力を 持っています。その武器は感染した細胞に穴をあけたり、細胞を自殺に導く物質で、さらに感染した細 胞がもつ自爆装置をオンにする働きも持っています。 ナイーブT細胞にはヘルパーT細胞になるものと細 胞傷害性T細胞になるものがいて、その運命は胸腺というリンパ器官で決められます。



マクロファージは組織中の異物を食べる働きを持っています。血液中では単球という名前を持っています が、組織に移動するとマクロファージという名前に変わります。病原体などの異物を認識するトールライ ク受容体を持っています。
樹状細胞はリンパ系組織に存在する細胞で、細菌などの異物を食べて分解すると、その一部を細胞の表面 (MHCという物質の上)に出して、“私はこんなものを食べました”と他の免疫担当細胞に報告(提示) します。これを抗原提示といいます。マクロファージとB細胞にも抗原提示を行う能力があります。



肥満細胞(マスト細胞とも呼ばれる)はアレルギー反応の主役を演じる細胞で、細胞表面にIgEという抗 体と結合する受容体を持っています。この受容体に抗原と結合した抗体が結合すると活性化されます。細 胞内に炎症を誘発する物質(ヒスタミン、セロトニン)を含む顆粒が充満していて、活性化されるとこの 顆粒を放出し、炎症を促進し、またアレルギーを引き起こします。さらに様々な脂質メディエーター( プロスタグランジンやロイコトリエン)をつくって放出する能力も持っています。



ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、血液およびリンパ液中に存在し、ウイルス感染した細胞や癌細胞 などの異常な細胞を攻撃します。その攻撃方法は、細胞傷害性T細胞と同様で、細胞に穴をあけたり 自殺に導く物質の放出です。

免疫を理解するために重要な物質には、抗原、抗体、サイトカイン、トールライク受容体があります。
抗原とは免疫担当細胞を刺激する物質で、私たちのからだには本来存在しない物質(異物)で、細菌や ウイルスなどの病原体の構造が抗原に相当します。
抗体は、抗原に特異的に結合することができる物質で、その実態はタンパク質です。抗原と結合す る部位と免疫担当細胞の細胞表面に結合することを可能にする部位を持っています。抗体は血液中 に溶けた状態で存在したり、B細胞や肥満細胞の細胞表面に結合して存在します。抗体にはいくつ かの種類(IgG、IgAなど)があり、構造・機能が異なり存在する場所も異なります。以下に抗体の 構造と機能を3つの図表にまとめてみました。ちょいと難しいので、今はとばして、最後に確認し てもらうことでも結構です。







サイトカインは免疫担当細胞を刺激したり、傷害部位に集まるように指令するのにつかわれる物質です。 サイトカインの多くは免疫担当細胞によりつくられますが、1部のサイトカインについては、からだを構 成するすべての細胞がつくれます。サイトカインはタンパク質です。また、免疫担当細胞が傷害部位へ 集まりやすくするために血管の透過性を高める物質として脂質メディエーター(脂肪酸からつくられる) も免疫には必要ですが、これは炎症を引き起こす原因物質でもあります。
トールライク受容体は、マクロファージ、樹状細胞、肥満細胞といった免疫担当細胞が持つ受容体で、 細菌の細胞壁の成分やウイルス特有の核酸の構造などを大まかに認識する受容体で、感染初期の防御 に重要です。この受容体は何を認識するかによって分類され、番号がふられています。たとえば、ト ールライク4は大腸菌やサルモネラなどのグラム陰性菌と呼ばれる細菌の細胞壁の成分であるポリリ ポサッカライドという物質の構造を、トールライク9はウイルスに特有の非メチル化CpG配列という核 酸の構造を認識します。抗体やT細胞受容体は抗原に対し特異的な認識を行うのに対し、トールライク 受容体は病原体に共通の構造部分を認識することで、大まかで非特異的な認識を行います。トールラ イク受容体では病原体の種類の特定まではできませんが、その侵入を確実に検出できるということで す。 それに対して抗体やT細胞受容体は病原体の種類まで確実に認識することが可能です。なので、 抗体を検査することでインフルエンザや新型コロナウイルスなどのうちのどのウイルスによる感染な のかを判定することができるわけです。トールライク受容体ではウイルスが感染したことまでは確認 できますが、どのウイルスなのかは明らかにできないのです。

免疫に関する登場人物の紹介が終わりましたので、その働きについて、先ず、細菌感染を例にお話し たいと思います。
細菌が体内に侵入すると、マクロファージ、樹状細胞、肥満細胞の3つの細胞がトールライク受容体を 使って侵入した異物の認識を行います。
トールライク受容体の刺激により、これら3つの細胞は種々の炎症性サイトカイン、ケモカイン (白血球の遊走を引き起こす物質)、脂質メディエーターを産生します。



これらの物質により血管の拡張と透過性の増加がおこり、感染局所に好中球やマクロファージが集めら れます。集まってきた好中球やマクロファージは非特異的に細菌を食べます。しかし、この食作用はあ まり強くはありません。
ここまでの過程は非特異的な防御で、自然免疫と呼ばれます。

マクロファージが細菌を細胞内に取り込み分解すると、リンパ節へ移動し抗原提示を行います。樹 状細胞もリンパ系組織で細菌を取り込み分解し抗原提示を行います。 抗原提示は分解した異物の一 部分をMHCクラスⅡという細胞表面にある分子の上に載せることで行われます。これにより何が感染 してきたのかが報告されます。



MHCIIによる抗原提示を受けとる細胞は、提示された抗原に対し特異的に結合できるT細胞受容体を持 つヘルパーT細胞です。同じ抗原と結合した抗原提示細胞とT細胞とが共刺激という結合を行うとT細 胞は活性化され、サイトカインを盛んに産生放出します。



抗原に特異的なIgG抗体をもつB細胞も抗原提示を受け、また、T細胞が産生するサイトカインによる刺 激により、増殖し、形質細胞に変化し、細菌の抗原に対する抗体をつくります。



感染初期につくられる抗体はIgM抗体ですが、次第にIgG抗体がつくられるようになり、IgG抗体が 防御反応の主力になります。



B細胞によりつくられたIgG抗体は細菌と結合します。好中球には抗体と結合した異物を爆食いする性質 があり、細菌に対する好中球の猛烈な攻撃が開始されます。好中球が猛烈な攻撃を行った痕跡は膿とし て現れます。膿を顕微鏡でのぞくと細菌や細菌を食べ込んだ好中球がたくさん見られます。



このような抗体が異物と結合することで好中球の攻撃力を高める作用をオプソニン化といいます。
異常の抗原提示細胞の働きから始まる過程は、体液中の抗体を利用した免疫で、体液性免疫ある いは液性免疫と呼ばれます。体液性免疫が働くと化膿が起こります。

次にウイルス感染を例にお話します。
なぜ細菌感染とウイルス感染を別々にお話しないといけないかというと、それはウイルスが私たちのか らだを構成する細胞の内部に入り込むという性質を持つからです。ウイルスは自己が増殖するために 必要な細胞内小器官を持っていないため、私たちのからだの細胞に入り込むことで、その細胞を利用 して増殖します。ここで問題となるのは、ウイルスが細胞内に入り込むと、抗体は細胞内に入れない ため、たとえ特異的な抗体があってもウイルスと結合してオプソニン化したりできないことです( これは初めての感染のときのお話で、2度目の感染では、そのウイルスに特異的な抗体による防御が 可能になります)。体液性免疫での重要な武器である抗体は初のウイルスには歯が立たないという ことです。
それではウイルス感染ではどのような免疫が働くのでしょうか。
ウイルスが体内に侵入すると、マクロファージや樹状細胞がウイルスを取り込み、細胞内に存在するト ールライク受容体でウイルス感染を感知します。ウイルスを感知したマクロファージや樹状細胞はサイ トカインの仲間であるI型インターフェロン(IFN-α、IFN-β)を産生します。感染した細胞にもINF-β を産生する能力があります。I型インターフェロンにはウイルスの増殖を阻止する作用があります。
マクロファージとナチュラルキラー細胞は、感染してしまった細胞を非特異的に破壊します。
ここまでの過程は細菌感染と同様に非特異的な防御で、自然免疫です。
ウイルスに感染した細胞は細胞表面にあるMHCクラスⅠという分子を用いて抗原提示細胞と同様に抗 原提示を行い、“私はこんなウイルスに感染してしまいました”と報告を行います。報告を受ける のはサイトカインにより活性化された細胞傷害性T細胞で、ウイルス抗原に特異的なT細胞受容体を 持つ細胞です。MHCクラスⅠはからだを構成するすべての細胞(マクロファージなの食細胞やB細胞 も含む)が持っています。



また、ウイルスを取り込んだ抗原提示細胞はMHCクラスⅡ分子を用いて体液性免疫と同様にヘルパーT細 胞に対し抗原提示を行い、提示を受けたヘルパーT細胞はサイトカインを産生します。この時、細胞傷 害性T細胞を増殖活性化させる作用の強いサイトカインが産生されます。
これらの過程により、ウイルス抗原に特異的なT細胞受容体を持つ細胞傷害性T細胞によるウイルス感染 細胞(MHCクラスⅠ分子を用いて抗原提示している)への猛烈な攻撃・破壊が開始されます。
活性化された細胞傷害性T細胞は、感染細胞を食べるのではなく、パーフォリンという細胞に穴をあけ る物質を放出したり、感染細胞の細胞表面に現れる自爆装置をオンにしたり、アポトーシスという特 殊な細胞死を誘導する物質をもちいて感染細胞を破壊します。
ウイルス感染時にマクロファージや抗原提示細胞で産生されるサイトカインの中にインターフェロン γという物質があり、これはマクロファージを活性化させる作用があり、活性化されたマクロファー ジはウイルスや破壊された細胞の破片を強力に貪食し、またウイルスの増殖を抑制します。マクロフ ァージが活躍した痕跡は肉芽腫という結節として現れます。
ウイルス感染では細胞傷害性T細胞や活性化マクロファージが活躍することから細胞性免疫と呼ば れます。 また、細胞性免疫が働くまでには数日間というやや長い反応時間を要します。そのため細 胞性免疫反応は遅延型反応とも呼ばれます。
免疫反応を、細菌感染:体液性免疫、ウイルス感染:細胞性免疫、としてお話しましたが、細菌 でも、結核菌、サルモネラ、マイコプラズマ、レジオネラ、リケッチアなどは細胞内で増殖するた め、細胞性免疫の対象となります。また、体液性免疫の抗体はウイルス感染に全く歯が立たないわ けではなく、感染前に結合することで感染を阻止したり、ウイルスが増殖を終え細胞外へ出たタイ ミングでウイルスに結合し、感染部位がさらに広がることを阻止できます。ウイルス感染時にも体 液性免疫は働いていてウイルスに対する抗体はつくられるということです。
体液性免疫でも細胞性免疫でも、サイトカインの刺激などによりB細胞やT細胞が増殖するとき、 その場では活躍しないメモリーB細胞やメモリーT細胞がつくられ、これらは最初の感染の終息後 も生き続け、次回の感染時に活躍することでその感染を迅速に終息させることを可能にします。 このように体液性免疫と細胞性免疫では免疫に記憶が起こり、感染が起こるたびに増幅され、次 第にすばやい反応として適応されることから、獲得免疫(適応免疫)と呼ばれます。
自然免疫がはたくときのきっかけとしてトールライク受容体についてお話しましたが、どのトー ルライク受容体が働くかによって産生されるサイトカインが異なり、これによりヘルパーT細胞 が体液性免疫と細胞性免疫のどちらを主に起動させるかが決まるようです。この過程には多様 な物質と複雑な機構が関わっていることが分ってきていますが、ここでは省略します。
ここでは省略しましたが、花粉症などのアレルギーは過剰な(必要のない)免疫防御反応で、 主にIgE抗体や肥満細胞、好酸球が関与する(暴れる)疾患です。
ワクチンは、病原微生物の毒性を弱めた物質(生ワクチン)や病原微生物から抽出された抗原と なる物質を、また、最近では病原体の抗原部分をつくる遺伝情報を持つ核酸を、投与することに より免疫系を刺激して病原微生物に対する免疫を(メモリーB細胞、T細胞)をつくるために用い られます。


免疫について理解したとき、どのようにすれば免疫機能が維持でき、また、高められるのか考えてみてください。 1つのポイントとして、免疫が働くときには担当する細胞が迅速に増殖する必要があるということかもしれません。 そのためには、核酸やアミノ酸をいつでも使えるように備える必要があるのかもしれません。このことは以前に “核酸栄養の話”“核酸摂取の必要性とは?”でお話しました。興味があれば、読んでみてください。

参考書:
休み時間の免疫学第3版 講談社 齋藤紀先 著 2018年
標準組織学 総論第5版 医学書院 藤田尚男・藤田恒夫 原著 岩永敏彦 改定 2015年

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