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超基本的なこと

セントラルドクマ(DNA→mRNA→タンパク)とタンパク、それから最近わかってきたエピジェネティクスとは?

私たちのからだに関する情報は遺伝子に保存されています。遺伝子の正体は、 A、T、G、Cの4つのアルファベットで示される4種のヌクレオチドという化学物質が何万何千と並んでできたDNAという糸状の物質です。この4種のヌ クレオチドの並び方(配列)が情報としてDNAに保存されています。どのような情報かというと、それはアミノ酸という物質がつながってできるタンパク の構造に関するものです。
タンパクとは、3大栄養素、蛋白質、脂肪、炭水化物の蛋白(タンパク)です。タンパクの英語は、protein:プロテインで、筋トレをしているひと向けの サプリメントとしてトレーニングジムなどで販売されていますよね。タンパクは私たちのからだの構造を維持する上で非常に重要なものですが、その働き 方から幾つかに分類できます。
一つ目は、構造タンパクです。文字通りからだの構造を作るタンパクです。よく知られているものとして、コラーゲンがあ ります。コラーゲンは皮膚の構造を作るのに重要なタンパクで、皮膚では別のタンパクとともに弾力性を与える構造をつくります。なぜ弾力性を与えられ るのかは別の項“4大組織を知る”でお話しできると思います。また、コラーゲンは筋肉 と骨あるいは骨と骨とをつなぐ構造にも重要な物質です。
タンパクの分類で二つ目は酵素(こうそ)とよばれるものです。酵素には私たちのからだの中で起こる化学反応を助けるはたらきがあ ります。私たちの唾液の中にはアミラーゼと呼ばれる酵素が含まれていて、でんぷんを分解します。でんぷんが豊富なジャガイモをたべると、口の中でで んぷんは唾液中のアミラーゼに出合います。するとアミラーゼがでんぷんの分解反応をたすけます。唾液アミラーゼは口の中ででんぷんを分解し小腸での 吸収をたすけます。もう一つ、みなさんは子供のころに転んでひざをすりむくと、オキシドールという液体を傷口にぬって、そのときのしみる苦しみに耐 えながらも、そこから泡があふれ出るのを楽しんで?見たことを覚えているでしょうか。オキシドールの正体は過酸化水素という物質で、傷口の組織ある いは血液に含まれるカタラーゼという酵素が、過酸化酸素を水と酸素に分解する反応をたすけます。この泡の正体は酸素ということです。酵素の仲間には 抗酸化酵素と呼ばれるものもあり、これは私たちのからだの中で発生する活性酸素を除去する反応をたすけ、アンチエイジングの世界では大変重要な物質です。 カタラーゼも抗酸化酵素の1つです。私たちの胃の中ではペプシンという酵素がタンパクを分解します。酵素が化学反応をたすけることを触媒と言います。

さて、タンパクの三つ目の分類は受容体です。受容体は、さまざまな情報や刺激を受け取り、情報に基づいたさまざまな反応を からだに起こさせる仲介者です。情報の混乱を避けるために、ある情報はある特定の受容体とのみ結びつきます。情報の種類の数だけ受容体にも種類がある わけで、非常にたくさんの種類の受容体が存在します。受容体の命名には、あつかっている情報の名まえが使われます。インスリンという物質の情報を認 識する受容体はインスリン受容体と呼ばれます。血液中の糖の濃度が上昇するとインスリンはすい臓と呼ばれる部位からつくられて、からだ中の様々な細 胞に存在するインスリン受容体に“糖の濃度が高いよ”という情報を伝えます。するとインスリン受容体を持つ細胞は血液中から糖を取り込む反応を起こ し、また肝臓では取り込んだ糖からグリコーゲンの合成を促し、結果として血液中の糖濃度が低下します。情報物質が受容体に情報を伝える現象を“受容体を 刺激する、あるいは受容体を活性化する”といいます。“インスリンはインスリン受容体を刺激して血液中の糖濃度を低下させる”わけです。ちなみにイ ンスリン受容体が糖濃度を低下させるまでには先ほどお話しした酵素が様々な反応をたすけています。また、インスリン受容体は脂肪の蓄積にも関係しま す。インスリン受容体の働きが悪くなると血液中の糖濃度が高い状態が続く糖尿病になります。受容体のなかまには細菌の構造を認識するものがあり、 細菌と戦うための反応(免疫反応)を起こすものもあります。

私たちのからだで今起こっている様々な反応を思い浮かべてみてください。そこでは必ず受容体が働いていると思います。たとえば、思い浮かべるということ、 手を挙げるということでも、受容体は働いています。どのように? 答は身体のしくみをこれからさらに理解していくことでわかってくると思います。
さらにタンパクには、免疫での情報伝達を行うインターフェロン(防御タンパクに分類される)やこの後に出てくる転写因子(調節タンパクに分類される) として働くものもあります。他にもカゼインのように母乳に含まれていて乳幼児の成長のための栄養源として使われるもの等があります。このタンパクの 分類に関してはページの最後に表(タンパクの分類)にまとめました。

タンパクをつくるアミノ酸は炭素にアミノ基とカルボキシ基という構造が結合した物質で20種類存在します。

話が長くなりましたが、ここで、セントラルドクマ(DNA→mRNA→タンパク)の話に戻ります。DNAとタンパクの間にmRNA(メッセンジャー・伝令RNA)と いうものがありますね。mRNAはDNAと同じくヌクレオチドという物質からできていますが、その種類はA、U、G、Cです。DNAとの違いが分かりますか?  mRNAはTの代わりにUを含んでいますね。

実はこのヌクレオチドの間には特別な関係があります。その関係とは、AはUまたはT、GはCと結びつくということです。この関係 に基づいて、DNAからmRNAが作られます。たとえば、DNAにATGCTAという配列の情報があると、そこからはUACGAUという配列のmRNAが作られます。RNAには もう一つ別のはたらきを持つものがあって、tRNA(トランスファー・運搬RNA)といいます。
tRNAは3つのヌクレオチドを持っていて、さらに、この3つのヌクレオチドの配列に応じて特定のアミノ酸とつながっています。たとえばCUUの配列を持つ tRNAはグルタミン酸というアミノ酸とつながっていて、また、UUCはリシンというアミノ酸とつながっています。tRNAがもつヌクレオチドの配列は様々で、 それぞれが対応する特定のアミノ酸とつながっています。タンパクをつくる様々なアミノ酸はすべて特定のヌクレオチド配列を持つtRNAとつながるように なっているわけです。DNAのヌクレオチド配列に応じてmRNAがつくられると、こんどはmRNAのヌクレオチドの配列に応じてtRNAが配列します。tRNAはアミ ノ酸とつながっているのでtRNAが配列すると同時にアミノ酸も配列することになります。このようにしてmRNAの情報からアミノ酸がつながった構造が出来 上がり、これがタンパクになります。

DNAあるいはmRNAのヌクレオチドの配列は3つごとに1つのアミノ酸に対応していて、タンパクをつくるための暗号のようなものです。mRNA上の3つのヌク レオチドの組み合わせをコドン、tRNA上の組み合わせをアンチコドンといいます。ヌクレオチドをA、Tなどに分類する構造の部分を塩基と言います。従て、 DNAやmRNAが持つ情報は、ヌクレオチド配列ではなく塩基配列と呼ばれます。この塩基の配列がそれぞれの生物の特徴を決めていて、ヒトとカエルのよう に種が異なると、塩基配列も大きく異なるわけです。たとえ同じヒトであっても、一卵性双生児以外は異なる塩基配列を持っていて、顔かたちが違ったり するわけです。これまでDNAのお話をしてきましたが、実はこのDNAはヌクレオチドがつながった単なる糸ではなく二重らせんという構造をしています。 一方の塩基配列にたいしその対となる配列がくっついてラセン階段のような構造をしています。二重というのは対になる2本の糸から出来ているということです。

タンパクは20種のアミノ酸が一列にたくさんつながったものです。遺伝子は私たちのからだがつくりうる莫大な数のタンパクの情報(対応する塩基配列) を持っているわけですが、この遺伝子の数は3万個以上あるとも言われ、塩基対の数では30億にもなるそうです。遺伝子DNAを引き伸ばしてみると2mにも達 するそうです。このような長い糸を顕微鏡の世界でしか見ることのできない細胞(1/100mmの世界)の中におさめるには、かなり巧妙な収納方法がなけれ ばなりません。その収納法とはどのようなものでしょうか。
収納法の基本は、DNAの糸がヒストンという球状のタンパクに巻きつくことです。

DNAは1つの球状のヒストンに1回転半ほど巻き付いています。1つのヒストンに巻きつくと、ちょっと距離を開けて次のヒストンに巻きつきます。これの繰 り返しによりDNAの糸は数珠状の構造をつくります。そしてヒストンにDNAが巻き付いた数珠の部位をヌクレオソームといいます。さらにこのヌクレオソーム どうしは凝集することができ、凝集した構造をクロマチンといいます。さらにこのクロマチンが凝集すると染色体という構造になります。

DNAが染色体の構造にまで凝集するのは稀なことで、細胞が分裂するときのごく一部の時期に限ります。顕微鏡で染色体の構造が観察されると、その細胞は 分裂中であると判断されます。顕微鏡という道具は必要ですが肉眼で確認できる遺伝子の形の一つが染色体です。
以上、DNAはヌクレオソーム、クロマチン、染色体というかたちで凝集することを話しましたが、この凝集の状態は遺伝子DNAの状態(休憩中、分裂中、仕事中) によって異なります。

今度は二重らせんのDNAを細かく解剖してみましょう。二重らせんがほどけた1本鎖のDNAはヌクレオチドが長くつながったものです。ヌクレオチドとは塩基と リボースという1種の糖が結合したヌクレオシドにリン酸が1つ結合したものです。

前にもお話したように塩基には暗号A、T、G、C、Uに相当するアデニン、チミン、グアニン、シトシン、ウラシルの5種類があります。ウラシルはDNAではな くRNAをつくるときにチミンに代わる塩基でしたね。これらの塩基にリボースが結合するとそれぞれ、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリ ジンというヌクレオシドになります。ここでDNAをつくるリボースは正確にはデオキシリボースというものなので、DNAをつくるヌクレオシドはデオキシヌク レオシドといい、アデニンであればデオキシアデノシンになります。その他の塩基については下の表で確認してください。ヌクレオシドにリン酸が結合する とヌクレオチドになり、アデノシンはアデニル酸になります。ヌクレオシドと同様にDNAをつくるヌクレオチドの名前の前にはデオシキアデニル酸のように デオキシがつきます。塩基はプリン環という構造をもつものとピリミジン環という構造をもつものに分けることができます。アデニンとグアニンはプリン 環を、シトシン、チミンとウラシルはピリミジン環をもつ塩基です。からだに悪いとされる尿酸の素になるものがプリン環の構造で、プリン体とはこの塩 基をもつ物質のことです。

これまで遺伝子すなわちDNAの構造のお話をしてきましたが、ここからは遺伝子の働きとその調節についてお話を進めます。

遺伝子がはたらくということはDNAの塩基配列に基づき特定のタンパクがつくられることです。前にお話しした、DNA二重らせん→1本鎖DNA→mRNA→tRNA・タン パクの反応が起こることです。ここで、DNA→mRNA、すなわちDNAの塩基(AとかGとか)の配列に基づいてmRNAが作られることを転写といいます。mRNAをもとに タンパクが作られる(塩基配列がアミノ酸配列に変換される)ことを翻訳といいます。

mRNAにはタンパクに翻訳される部分とそうでないところがあり、翻訳される部位をエクソン、翻訳されないところをイントロンといいます。mRNAからイントロン が切り離され翻訳される領域のみをもつうようになることをスプライシングといいます。また、DNAにもmRNAに転写される部位とされないところがあります。この 転写されないところには遺伝子の働きを調節する部位があります。転写はDNAのプロモーターという部位にRNAをつくる酵素(RNAポリメラーゼ)が結合することで 始まります。RNAはプロモーターの位置から1方向に向かってつくられます。このプロモーターには遺伝子の働きを高めるタンパクや働きをストップさせるタンパク が結合します。このようなタンパクを転写因子といいます。

とくに働きを止める因子をレプレッサーといいます。また、遺伝子DNAには転写の活性を調節する塩基配列が存在し、これらの配列はエンハンサーまたはサイレンサ ーと呼ばれ、エンハンサー領域は転写を活性化し、サイレンサー領域は転写を抑制させます。これらの部位で調整を行うことにより遺伝子の働きは調節されていま す。食品の成分にはこの調節部位にはたらきかけるものがあり、健康食品のメカニズムを理解するうえで重要になってきました。
転写では、DNA二重らせんをつくる2本のDNAの糸のうち片方からのみRNAがつくられ、これを鋳型鎖(アンチセンス鎖)、RNAがつくられない側をセンス鎖と呼びます。 ここでつくられるRNAとセンス鎖DNAはTとUが置き換わる以外は全く同じ配列になります。

さて、遺伝子がはたらく(mRNAがつくられる)には、まず、鋳型鎖のプロモーターに酵素(RNAポリメラーゼ)がくっつく必要があります。そのためには、強く凝集 したクロマチン構造がほどけた構造にならなければなりません。このような構造の変化は、DNAが巻き付くヒストンに幾つかの飾りが付いたり外れたりすることで起 こります。飾りとは、アセチル化とかメチル化と呼ばれるものでアミノ酸がもつ構造の一部がヒストンタンパクに付いたり外れたりします。これによりクロマチンの ほぐれ具合が調節されたり、RNAをつくる酵素が鋳型DNAに接近することが調節されます。

メチル化という飾りつけは、DNAにも起こります。A、T、G、Cの4種の塩基のうちC(シトシン塩基)にメチル化の飾りが付いたり外れたりします。DNAの塩基の配列の中でCとGが並んだ ときのCにメチル化が起こります。このCG配列は、先ほど出てきたDNAのプロモーター領域に多く存在することがわかっていて、このプロモーター領域のCにメチル化が起こると、 転写因子(遺伝子の働きを調節するタンパク)がプロモーターのDNAに結合するのを邪魔します。この邪魔により遺伝子の働きが調節されます。

これまでにヒストンタンパクの飾りとプロモーターのCの飾りによる遺伝子の働きの調節をお話ししました。これらの調節は遺伝子の働きのうちDNA→mRNA、転写が始ま る以前の部分に関するものでした。もう一つ遺伝子の働きを調節する仕組みがわかっています。これは、mRNAからタンパクがつくられるところ、翻訳のところで起こり ます。細胞内にはタンパクに翻訳されることのないおよそ25個の塩基からなる短いRNAが存在し、マイクロRNA(miRNA)といいます。 miRNAはタンパクに翻訳される通 常のmRNAと相補的な塩基の配列を見つけると、これに結合し翻訳を邪魔したり、mRNAの分解を引き起こします。これにより遺伝子の働きが翻訳の部分で調節(阻害)さ れます。これまでに述べたヒストンタンパクやプロモーターDNAの飾りとmiRNAによる遺伝子の働きの調節は、近年研究が盛んに行われていてエピジェネティクスと呼ばれています。

昔は遺伝子の働きは突然変異という塩基配列の変化により変化すると考えられていましたが、エピジェネティクス研究により遺伝子のはたらきが塩基配列が変わることな く変化することが明らかになり、エピジェネティックな変化ががんや生活習慣病に深く関係することがわかってきました。さらにエピジェネティクス研究は、様々な食品 が私たちのからだの健康維持をたすけるメカニズムを明らかにしてきています。従って、ここでお話しした遺伝子の働きを調節する仕組みを理解しておくことは大切なのです。

私たちのからだは11の器官系からできていて、各器官系は4大組織からできています。さらに細かく解剖 していくと、細胞という単位でできていることがわかります。この細胞は分子という物質の単位できていて、 さらに分子は原子という単位でできています。 次は細胞の話です。以下の"化学の基礎知識"は飛ばしても構いません。必要に応じて化学の知識は読んでください。



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からだの働きをもうちょっと詳しく理解するために化学の知識も身に着けよう。

化学の基礎知識:
私たちのからだは11の器官系からできていて、各器官系は4大組織からできています。さらに細かく解剖 していくと、細胞という単位でできていることがわかります。この細胞は分子という物質の単位できていて、 さらに分子は原子という単位でできています。原子は正の電気をもつ陽子と電気をもたない中性子からなる原子核とその周り をまわる負の電気をもつ電子からできています。

すべての物質を構成する基本的な成分を元素といいます。1種類の元素からなるものは単体、2種類以上の元素からなるものは化合物 といいます。細胞については“細胞の話”で勉強しますが、細胞を作っている分子や原子について、ここでは基本的なことを説明します。
すべての物質(単体と化合物)を構成する基本的な成分を元素といいます。元素は約110種類知られていますが、これらを表すために元素記号が使われます。 水素の元素記号はH、炭素はC、酸素はOです。元素の周期表というものを検索するとすべての元素記号がまとめられています。原子と元素は同じようなことを意味しますが、 元素は種類を表し、原子は構造そのものを指します。物質を元素記号で表したものを化学式といい、分子を構成する元素の種類とその数で表したものを分子式といいます。 水の分子式はH2O(水素2個と酸素1個からなる)、酸素はO2(酸素2個からなる)、二酸化炭素はCO2(炭素1個と酸素2個からなる)、グルコース(ブドウ糖)はC6H12O6(炭 素6個と水素12個と酸素6個からなる)で表されます。
共有結合: 各原子は他の原子と結合するためにそれぞれ決まった数の手をもっています。水素は1本、酸素は2本、炭素は4本です。

結合した1本の手には各原子から1個ずつ計2個の 電子からできています。2つの原子が電子を共有することから、この結合は共有結合と呼ばれます。

炭素は他の原子と結合するための手を4本持っていますが、1つの原子と2本の手を使った結合を二重結合といいます。

水素結合: 水:H2O分子をよく見ると、H2Oに存在する電子は酸素:Oに引っ張られていて、電気的な偏り(極性)が生じています。H2OのOはマイナス、Hはプラスの極性をもっています。このような 性質から水の分子同士はOとHの間で下の図のように弱い静電的な結合が起こります。

この図をよく見るとOがHで結合しているように見えるので水素結合といいます。
物質の構造を複雑にする光学異性体 D-体とL体:
炭水化物や脂肪など多くの物質は炭素:C、水素:H、酸素:Oからできていますが、ちょっとCに着目してみると、Cは4つの手を持っていて下の図のように4つの原子とつながることができます。 ここでは4個のXあるいは2個のXとAとつながったものを表しています。

ここでCがつながる4つの原子がXYABと異なる物質を考えてみます。そしてこの物質を鏡に映してみます。下のような図になります。

右上の図のようなものが鏡に映りますが、原子の名前がわかるように名前だけ戻したのが右下の図になります。鏡に映った右の図を裏返してみると鏡に映ったものと元のものは同じ (重ね合わせられる)であることがわかります。ここでは物質が平面でしか考えられていませんね。実際には立体的に考える必要があります。次の図を見てください。

物質を立体的に考えるため結合をあらわす三角を青と黄色に色分けしました。ここで青の三角で結合したAとYはCに対して奥のほうへつながっていて、黄色の三角でつながったXとBはCの 手前につながっているように表してみました。このとき鏡に映った右の物質はどのように回転させても平面で考えた時のように元の左の物質にはなりません。つまり、この鏡に映った2つの 物質は異なる物質です。このような物質を互いに光学異性体といいます。このような光学異性体はCにつながる4つの原子が異なる場合に生じます。光学異性体を生じる、異なる4個の原子 または原子団と結合しているCのことを不斉(ふせい)炭素原子といいます。
複数のCからなる炭水化物の単糖は複数の不斉炭素をもっています。単糖では各Cに番号がつけられ大きな番号が下にくるように構造が描かれます。このとき単糖がもつ不斉炭素のうちこの 番号が最も大きなCに結合する水酸基:OHを右側にあらわしたものをD型、左型にあらわしたものをL型と呼びます。下の図はグルコースを例にD-型、L-型を示しました。

タンパクをつくるアミノ酸は炭素Cにアミノ基NH2とカルボキシ基が結合した構造をもち20種類存在します。このアミノ基とカルボキシ基が結合する炭素は不斉炭素となるのでアミノ酸にも D型とL型がつくられそれぞれD-アミノ酸とかL-アミノ酸といいます。D型のことをR型ということがあります。D体L体のDはラテン語で右を意味するDexterのD、Lはラテン語の左を意味する LeavusのL、R体L体のRは英語で右を意味するRightのR、Lは英語で左を意味するLeftのLに由来するそうです。

タンパクのところでお話した酵素や受容体は物質の立体構造を認識し、グルコースやアミノ酸のD-型L-型も区別します。炭水化物のところでお話しますが分子式C6H12O6で表せる物質には D-型L-型のグルコース以外の物質も存在します。また、同じ分子式で表せる物質が長くつながってできた物質では、つながる物質の光学異性体の違いによって出来上がる物質の性質が大き く変わります。タンパク質をつくるアミノ酸はL-アミノ酸だけです。これもアミノ酸あるいはタンパクをつくる酵素がL-体とのみ結合することによります。生物界でつくられる物質は光学 異性体を識別する酵素のはたらきでつくられるので片方の異性体のみが存在することになりますが、生物のはたらきによらない化学工業でつくられる物質には両方の異性体が含まれること になるようです。
からだの構造やはたらきを理解するとき、この光学異性体ということを理解しておくことも大切なことなのです。


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